発見、神事の変化

狭い範囲に同じ神事が並存する田主丸では、地区によって、作法が違ったり、別の神事に溶け込んでしまったような、面白い発見もできます。
ここでは「風鎮祭(ふうちんさい)」という神事を例に、説明しましょう。この神事、月読神社・林宮司さまが担当する範囲では、田主丸の中心地にある怒田、中舎館、口高という隣接する3地区だけで行われています。
このうち口高・黒島神社と怒田・天満宮だけは、境内の木の上に竹柱をくくり付け、その上端に「風鎮祭 五穀豊穣・蝗虫駆除」と書かれた白布をはためかせます。この作業、口高ではクレンーンゴンドラを使いますが、怒田では今でも人が木に登って作業する様子が見られます。
風鎮祭では、厄除けの柱を地区の境々に立てることをします。中には、互いの地区の柱が近くに並び立つ場所もあります。どの地区もその柱に御幣(ごへい)を付けますが、飾り付け方は地区で異なります。柱の立て方も、地面に突き立てる、家の敷地内に立て掛ける、標識や電信柱にくくり付ける、と実にさまざま。


この厄除け柱立て、実は西郷・天満神社、今村・徳満神社、牧・八幡宮の神事でも行われるのです。しかし、面白いことに、柱立てが行われるのは、大きな茅の輪をくぐる「茅の輪くぐり」の神事の時。しかも、地元の人に尋ねても「風鎮祭」なんていう神事は知らないと言います。
ところが、厄除け柱に付けられる御札(おふだ)の祈願文を読んでみると、なんと驚いたことに、そこには「風鎮祭」あるいは「風止祭」と書かれているではありませんか。
御札にある「風止祭」ですが、徳童・天満神社では「風祭」という神事が行われているそうです。久留米市の調査資料ではこの神事を「風止祭」と記録しています。しかし、この地区では、境内の木に白布を上げなければ、厄除け柱も立てないそうです。
ただし、各戸に配布する御札を用意するのは、西郷、今村、牧の茅の輪くぐり神事と同様です。
風止祭は、さらに、田主丸の柴刈・川会地域でも、多数行われているようです。
様々な要素がこのように場所によって形を変え、色々な神事に組み合わされていったことを実感できる点も、田主丸の神事の面白さだと言えます。